士業の面談記録と守秘義務 — 記録の利便性と、守るべき一線
弁護士や税理士が面談記録を外部の文字起こしサービスに預ける前に確かめる5点と、相談者への説明の仕方、案件の性質による使い分け、外部に出さない選択肢と音声の削除までを整理しました。
弁護士、税理士、社会保険労務士、司法書士。相談を受ける職種では、面談の記録が業務の中核にあります。
同時に、守秘義務という強い制約があります。記録を効率化したいが、相談内容を外部に出すわけにはいかない。この緊張関係をどう扱うかを整理します。
以下は一般的な整理であり、法的助言ではありません。各士業の職務規程や所属会の指針を優先し、判断に迷う場合は所属会等にご確認ください。
前提:守秘義務の重さ
多くの士業には、法令や職務規程で守秘義務が課されています。違反は懲戒の対象となりうるほか、刑事罰が定められている場合もあります。
一般企業の情報管理とは、求められる水準が異なります。「便利だから」で判断できる領域ではありません。
外部サービスを使う前の確認
文字起こしサービスに面談の音声を渡すということは、相談内容を第三者に預けるということです。
確認すべき点を挙げます。
1. 音声とテキストが保存されるか
処理後に削除されるのか、一定期間保存されるのか。保存されるなら、その事実自体を検討の対象にすべきです。
2. AIの学習に使われるか
利用規約に「サービス改善のためにデータを使用する」といった記載がある場合、相談内容が学習に使われる可能性があります。
明確に否定していないサービスは、この用途に適しません。
3. 提供者側の従業員が閲覧できるか
品質改善のために人が確認する運用のサービスもあります。これは一般的な用途では問題になりませんが、守秘義務の観点では意味が変わります。
4. 保存先の国と適用される法制度
海外のサーバーに保存される場合、その国の法制度が適用されます。開示請求の枠組みも異なります。
5. 契約上の位置づけ
外部委託にあたるかどうか、委託先の監督義務をどう果たすか。所属会の指針に定めがある場合はそれに従ってください。
相談者への説明
外部サービスを使う場合、相談者に説明して同意を得ることを検討すべきです。
「面談内容を正確に記録するため、録音のうえ文字起こしサービスを利用しております。データは処理後に削除され、〇〇の目的以外には使用しません」
説明が難しいと感じる場合、それはそのサービスを使うべきでないという判断材料かもしれません。
相談者に説明できない処理を行うことは、信頼関係の前提を崩します。
使い分けという考え方
すべての面談に同じ基準を適用する必要はありません。
| 内容 | 考え方 |
|---|---|
| 一般的な手続きの説明 | 通常の運用で足りる場合が多い |
| 係争中の案件 | 外部に出さない判断も |
| 相手方の情報を含む | より慎重に |
| 相談者が特定されうる内容 | 匿名化も検討 |
すべてを最高水準で扱うと業務が回らず、すべてを同じ緩さで扱うと事故が起きます。 内容による切り分けが現実的です。
外部に出さない方法
守秘性が高い案件では、外部サービスを使わない選択が適切な場合があります。
- その場で手書き・入力する
- 録音のみ行い、自分で聞き返して記録する
- ローカルで動作する文字起こしソフトを使う(データが外部に出ない)
手間はかかりますが、外に出ていないものは漏れません。効率をすべての案件に適用する必要はありません。
記録そのものの扱い
外部サービスの問題とは別に、記録自体の管理も重要です。
保管
- 施錠された場所、またはアクセス制限のあるストレージ
- 事務所内の共有範囲を限定する
- 補助者が閲覧できる範囲を定める
音声データ
記録が完成したら音声は削除するのが基本です。
面談の音声には、記録に残さなかった発言も含まれています。相談者の感情的な発言、周辺事情、第三者への言及。書面に残さなかったものが音声には残っているという点は、特に意識が必要です。
保存期間
案件終了後どれくらい保管するかは、所属会の指針や事務所の規程に従ってください。
記録の書き方
守秘性とは別に、記録として機能させるための観点です。
相談者の言葉をそのまま残す
法的な評価と、相談者が述べた事実は分けて記録します。
- 事実:「〇月〇日に契約書に署名したとのこと」
- 評価:「錯誤の主張が可能か検討を要する」
確認できていないことを明示する
相談段階では未確認の事項が多く残ります。何が裏付けられていて、何が相談者の申告のみかを区別してください。
次にやることを明確にする
【当方】〇日までに〇〇を調査
【相談者】〇〇の書類を〇日までに持参
相談者側の宿題も記録しておくと、進捗の確認がしやすくなります。
まとめ
- 外部サービスの利用は、守秘義務の観点から個別に判断する
- 確認すべきは保存・学習利用・閲覧範囲・保存先・契約上の位置づけ
- 相談者に説明できない処理は行わない
- 案件の性質による使い分けが現実的
- 守秘性が高い案件は外部に出さない選択も
- 音声は記録完成後に削除する(書面に残さなかったものが入っている)
効率化そのものは否定されるものではありません。ただ、この職種では「便利かどうか」の前に「預けてよいか」があるという順序を外さないことが重要だと考えます。
なお、具体的な判断は所属会の指針や職務規程に従い、必要に応じて所属会等にご確認ください。